山口家庭裁判所下関支部 昭和53年(少)588号 決定
主文
少年を特別少年院に送致する。
理由
(非行事実)
少年は
第一 窃盗ならびに婦女を姦淫する目的で
一 昭和五三年八月七日午前五時五五分ごろ、下関市○○町×-××-×○○荘一階A方裏側無締りの硝子窓を開けて同居宅内に侵入し、四畳半の間にあつた同人所有にかかるバスタオル一枚(時価五〇〇円相当)を窃取したのち、六畳間で布団に長男(当一年)と就寝中のB子(当二五年)を認めるや、劣情を催し、さきに窃取したバスタオルで覆面してやにわに同女の上に馬乗りとなり、両手で、首を締めるなどの暴行を加えてその反抗を抑圧し、強いて姦淫しようとしたが、同女が必死に抵抗したため、その目的を遂げず
二 同年九月四日午前五時四〇分ごろ、同市○○町×-×-××C方裏側網戸を押し開けて同居宅内に侵入し、六畳間にあつたハンドバックからD子(当二九年)所有にかかる現金一四、五〇〇円位を窃取したのち、他の部屋で単身就寝中の同女を認めるや、劣情を催し、やにわに同女の上に馬乗りとなり、両手で首を締めるなどの暴行を加えてその反抗を抑圧し、強いて姦淫しようとしたが、同女が必死に抵抗したため、その目的を遂げず
三 同月三〇日午前五時四〇分ごろ、同市○○町××番×号E方表側無締りの硝子窓を開けて同居宅内に侵入し、六畳間で布団に長女F子(当二年)と就寝中のG子(当二九年)を認めるや、劣情を催し、やにわに同女の上に馬乗りとなり、両手で首を締めるなどの暴行を加えてその反抗を抑圧し、同女のパジヤマのズボンに手をかけるなどして強いて姦淫しようとしたが、同女が必死に抵抗したため、その目的を遂げず
四 同年一〇月一五日午前五時五〇分ごろ、同市○町××番××号H方裏側無締りの硝子戸を開けて同居宅内に侵入し、四畳半の間ベツドに単身就寝中のI子(当三八年)を認めるや、劣情を催し、やにわに同女の上に馬乗りとなり、両手で首を締めるなどの暴行を加えてその反抗を抑圧し、同女のパンティを脱がして強いて姦淫しようとしたが、同女が必死に抵抗し硝子障子を蹴り破るなどして助けを求めたために、その目的を遂げなかつたが、その際前記暴行により、同女に対し右足背部切傷、頸部擦過傷等による加療一〇日間を要する傷害を与え
第二 同年八月二七日より同年一〇月一五日までの間、五回にわたり、別紙一覧表記載のとおり、J子ほか四名所有にかかる現金その他の財物を窃取し、または窃取しようとしたがその目的を遂げず
第三 同年一〇月三日午後五時四四分ごろ、同市○○町○○神社下交差点付近道路上において、公安委員会の運転免許を受けることなく、自動二輪車(長崎ま××××号)を運転し
たものである。
(適用法令)
第一刑法一三〇条、一七七条、一七九条、一八一条
第二同法二三五条、二四三条
第三道路交通法六四条、一一八条一項一号
(処遇理由)
少年は両親の離婚等のためとはいえ、中学校時代より空巣等の非行を頻繁に繰り返し、昭和五〇年一二月一二日神戸家庭裁判所尼崎支部において、東京都・山口県・兵庫県などで窃盗(空巣)、強盗の非行を重ねたことから保護観察処分(東京保護観察所)を受け、さらに昭和五二年六月一五日東京家庭裁判所八王子支部において、都内二六ケ所における窃盗・同未遂の非行(被害総額、現金三九六、一六〇円、その他一、六一〇、〇〇〇円相当)を理由に、中等少年院送致決定を受けたものであるが、昭和五三年六月一二日入院先の多摩少年院を仮退院して、同月一四日叔父(父の実弟)D・Rに引き取られて、同人の営業するラーメン店にて働くべく来関した。
その後、同年七月ごろまでは叔父夫婦の家庭で家族の一員として生活し、仕事の方も真似面に励んでいたが、八月に入つて前記非行事実を重ねるに至り、急速に生活の崩れを招いた。
少年は、両親の離婚後、実母が他の男性と生活を共にし、これを自己に対する裏切りだと考えて、実母に対する反撥心を強め、それがそもそもの同少年の非行化の遠因になつたものともみれるが、しかし、それにつけても中等少年院送致の理由となつた窃盗は、かなり熟練された手口で、ほぼ常習化されていたものであり、その態様も次第に本格化して悪質かつ大胆なものとなつていた。そして仮退院後の非行である本件は、それまでの単なる盗癖から更に発展して、手当り次第に婦女子を力づくでも姦淫しようというところまできており、危険極まりないものというほかない。少年も仮退院後一・二ヶ月間は真似面に生活し、窃盗・強姦行為の許されないことは一応理解していたものとも考えられるが、しかし、それが自己の内面において具体的行動を制禦するほどまでには規範化されておらず、より悪質な衝動的行動に出易かつたものであつたことは、未だ少年の社会規範の育成が十分でなかつたことを物語るものといえる。少年の身辺には既に保護者の指導・監護能力が全くうかがえず、上記の経緯よりみて、その非行傾向は一段と進んでいるものと認められ、社会内処遇には余りにも危険性が伴いすぎるものと思料される。しかして矯正教育を施すに際しては、その種別にっき、事案の性質、少年の非行歴、向上意欲その他諸般の事情を総合斟酌すると、特別少年院をもつて最も妥当なもざるをえない。
よつて少年法二四条一項三号、同審判規則三七条一項、少年院法二条四項を適用して、主文のとおり決定する。
別紙 一覧表
日時
犯行場所
被害者及び被害物件
既遂・未遂の別
一
五三年 八月二七日
下関市大字○○字○○××○○アパート×号J子方居宅
J子所有の現金九、六〇〇円位
既遂
二
五三年 九月一〇日
同市○町××番×号K方居宅
K所有の現金三九、〇〇〇円
既遂
三
五三年 九月三〇日
同市大字○○××○○荘L方居宅
L所有の現金七、〇〇〇円
既遂
四
五三年一〇月五日
同市○○町×番××号(株)○○下関センター事務所内
手提金庫
未遂(現金が見つからず)
五
五三年一〇月一五日
同市○○町×-×-×○○ハイツ××号M子方居宅
M子所有のパンテイストツキング一枚(時価一五〇円相当)
既遂